【安念教授】「当初のもくろみと違った」と言っている人がもしいるとすれば、その人たち、当初、何を考えていたんだろうなって、とても不思議に思います。

法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会(第6回)
平成22年11月9日(火)14:00〜16:35
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/houkadaigakuin/37212.html
http://www.soumu.go.jp/main_content/000102515.pdf

【谷藤座長】 どうもありがとうございました。大変刺激的な話をいっぱいお伺いする
ことになりました。
それでは、ここからは、質疑応答の形で進めたいというふうに思います。最初に少し口
火といいますか、既修生と未修生ということで、教授メソッドは根本的に違いますか。
【安念教授】 違いません。いや、というのは、一緒にしてまぜこぜにやっております
から。しかもですね、年によって違うんですね。去年ははっきり言ってよくなくても、今
年は意外にということがございまして、一概には何とも申せません。
【谷藤座長】 既修、未修というのは、あんまり大きく分ける意味というのはありませ
ん?
【安念教授】 はい、私の実感はそうです。ただ、どちらかといえば、既修の試験に落
ちた、実質的には法学部卒業生が未修に回るという傾向はありますので、やや乙種学生と
いうか、セカンドクラスシチズンというイメージはあるやに聞いております。それは否定
ではできないと思います、確かに。
【谷藤座長】 既存の新司法試験と言われるものを前提といたしまして、未修者に3年間
で、先ほど先生がおっしゃったようなある種のメソッドで合格させていくということに、
先生は負担感というものは感じておりますか。
【安念教授】 私にとっての負担ですか、学生にとっての負担ですか。
【谷藤座長】 先生にとっても負担感があるかということと、もう一つは、学生にとっ
ても。
【安念教授】 私はサラリーマンですから、給料分働くというだけですので、私の負担
はどうってことないですけれども、もしも法律の素養全然なしで3年間であの司法試験に
受かれというのは、私はそれはよほどの秀才だと思いますね。つまり、日本の司法試験と
いうのは、アメリカのバーエグザムなんかと違って、ある種の習熟を必要とするんです。
それはもうある程度の絶対的な年季が必要ですよ。だから、とても難しいと思います。
【谷藤座長】 それはいわゆるロースクール単体でそういうものを全部身につけさせる
ということは、無理だと先生はお考えですか。要するに、受験のための塾がございますよ
ね、ああいう存在と言われるようなものも、認めざるを得ないみたいなところですか。
【安念教授】 認めざるを得ないとかそういう話ではなくて、1人が通ってしまえば、
それはデファクトスタンダードになっちゃうわけですから、ほかの人もせざるを得ません。
それはもう、良い、悪いの問題じゃない、必ずそうなります。
【江川委員】 ほんとに初歩的なことを伺って申しわけないんですけれども、ソクラテ
ィック・メソッドというのは、つまり問答しながらやるということですよね。それがほか
ではスタンダードだということですか。わざわざ強要しないというふうに先生がおっしゃ
っているということは、ほかはみんなそういうふうにやりたがって、やっているというこ
とですか。
【安念教授】 ロースクールでは、ソクラティック・メソッドでやらなきゃいけないん
だそうですよ。
【江川委員】 それはだれが決めた?
【安念教授】 知りません。みんなそう言っているから、そうなんじゃないですか。
【江川委員】 例えば法務省とか文科省とかから言われたわけではないんですか。
【安念教授】 言われているんじゃないですか。プロの方に聞いていただいたほうがい
い。確か、法令で決まっているんじゃないですか。「ソクラティック・メソッド」とは書い
てないと思いますよ、「双方向」とか何か、そういう地デジみたいなことを言っているんじ
ゃないですか。何度も言っていますが、ソクラティック・メソッドは極めて優秀な教師で-30-
なければ成り立ちません。これだけははっきりしています。
【松本評価監視官】 そこは、後ほど調べてお返事するようにします。今のご質問は事
務局で処理します。
【三上委員】 大学で一つの問題として、昔の法学部の時代に比べて研究者を育てる力
が弱まっているというような批判があると思うんですが、その件と法科大学院制度ができ
たことが、研究者の育成ということに関して何か問題があるのかというのが1点と、学部
の授業と法科大学院の授業に重複感はないのか、つまり、学部の授業、大学で4年間のう
ち後半の2年間を前提に考えると、プラス2年間の4年間ほんとうに必要なのか。既修生
のように3年間で終わる、ないしは、優秀な人間であれば、はっきり言ったら2年間でも
十分ではないかと。昔の司法試験のときのようにですね。その点については、法学、世の
中で法曹を実践するに必要な知識を身につける上で必要な年限という意味ではどうかとい
う、その2点についてご意見をお伺いしたいと思います。
【安念教授】 まず第1のご質問については、私は関心がないので知りません。つまり、
私は、日本で法律の研究者なんていなくたって全然構わない、例えばこの私が失業者にな
るだけでだれも困らないと思いますので、ちっともそれが問題だというふうに思っており
ません。ですから、問題だと思っている方にお聞きいただいたらよろしいかなと。私はそ
もそもそれ自体がノープロブレムだと思っております。
第2の点ですが、これはなかなかお答えするのは難しいですね。つまり、法律学という
のは、深いだの高度だのと言ったって、そんなのないんですよ。要するに、知識は同心円
状に広がっているだけの話で、例えば数学なんかであれば、完全に積み上がりですよね。
経済だって、例えば教養レベルのミクロ、学部レベルのミクロ、それから修士レベルのミ
クロとある。マクロもみんなそうですね。そういうふうに一応あるわけですよ、スタンダ
ードが。ところが、そういうのは法律学にはありませんので、結局まあ同じことをやって
いるんです。その教え方が違うとか、そういうことはありますけれども、中身は同じこと
ですね。
【三上委員】 つまり、先ほどおっしゃった経済的にペイする制度にするためには、や
っぱりできる限り教える期間を短くして……。
【安念教授】 あ、当然です。
【三上委員】 で、卒業した人間の進路をできるだけ限らないようにする。
【安念教授】 はい。
【三上委員】 大学でほかの学部が4年であれば、法学部も4年で終わるようにすると
いうのが一番ペイしやすい制度ではないかと思うんですが、その点から考えて、法科大学
院制度というものは法曹を育てていく上で今の法学部にオンして有用な制度かということ
に関しては、どのようにお考えですか。
【安念教授】 長過ぎることははっきりしていると思いますね。およそプラクティスに
出す前に7年も8年もお蚕さんみたいな期間があるなんて国は日本だけしかないでしょう。
それは全く無駄だと思います。短い期間にできるだけインテンシブにたたき込んで、あと
は「どうぞ世の中に出て競争してください」ってやる以外は方法がないと私は思っており
ます。その点でまったくご説のとおりと存じます。
【山田委員】 落ちた人へのケアというのはどの程度されているか。自習室を使わせて
あげるとか、私的な研究会というのが中央大学はあるので、そちらに所属しているからと
いうようなのも多少売りになっているところはわかるんですけれども、公的に、もしくは
先生個人で、給料以上にケア・サポートされることというのはありますか。
【安念教授】 公式に受験勉強させちゃいけないみたいな、何かわけのわからない雰囲
気があるものですから、ロースクールとは組織的に別なところでですけれども、ある種の
答案練習会であるとかセミナーのようなものはやっております。私も、卒業生というか、
修了生で失敗した子が来れば、もちろんそれは長々相手しております。この前も1人2時
間ばかり、女の子で、途中で何回も泣かれまして、つらいんでしょうね。ほんとかわいそ
うだと思いました。もうあと1回しかない子です。ちょっと胸の詰まる思いがいたしまし
たね。そういうことをやっております。
【谷藤座長】 最近のロースクールへの入学者のトレンドについて、どんなご感想を持
っていらっしゃいますか。
【安念教授】 最近のトレンドはアプリカントが減っているということですね。これは、
人々が合理的に行動しているからであって、まことに望ましいことです。リスクに見合わ
ないわけですから、期待利得が。ですから、それは減るのは当然のことです。日本人がば
かじゃないということの証明なんです。ということは、その資質が下がるのは当然のこと
です。つまり、腕に覚えのあるのはもう少し見込みのあるセクターに行くということです
から、だんだんと資質が下がっていくことになると思います。日本の経済が合理的な人々
によって運営されているという証拠でございますから、大変結構なことでございます。私
個人は、失業してしまうかも知れないので困りますけどね。 -32-
【谷藤座長】 もう一つ、新司法試験あるいは法曹養成制度の一つの目標は多様な人材
を吸収していくということが大きなねらいだった。そういったところから見ますと、最近
の入学者のトレンドはどのように感じていらっしゃいますか。
【安念教授】 実質的な法学未修者はどんどん減っておりまして、もうほとんどマージ
ナルな存在になっているんじゃないでしょうか。これは当たり前の話でして、リスクが高
過ぎる。転身することのリスクが高過ぎるのと、そもそも司法試験に合格することに先ほ
ど申しましたように一種の熟練を要しますから、学部でやっていないということは実は大
きなハンディキャップになっております。したがって、法学以外のバックグラウンドを持
つ者、あるいは、社会人としての経験を持つ者という意味での多様性という言葉を先生が
もしお使いであるならば、完全に失敗していると思います。それは、制度をそう仕組んだ
のに予想に反したのではなくて、予想どおりに失敗したという、そういうことでございま
す。
【江川委員】 先ほどの山田先生がおっしゃった落ちた人の話なんですけれども、先ほ
ど相談を受けたのはあと1回と。その三振してしまった人たちもおそらく相談を受けたり
することもあると思うんですけれども、そういう人たちの身の振り方というのはどういう
ふうに……。
【安念教授】 ございませんでしょうね。私、ロースクールが始まる前とか始まってか
ら、何人もの経済人の方、経営トップに近い方々に、雑談の中で、そのことだけを伺った
わけじゃありませんが、「三振した人間はそれでも一応の素養があるんだから、採ってもら
うなんていうことはできないものでしょうかね」と伺ったら、「そんなことがあるはずない」
とおっしゃる。「3回チャンスがあって、お上からこいつはだめだという烙印を押されたや
つをわざわざ採るばかな企業がどこにある」と。私が会った限りでは、すべての経済人が
判で押したようにそのようにおっしゃっております。私も人事担当者なら採りませんでし
ょう。大手企業の採用のルーティンには確かに乗りにくいでしょう。個別ケースの例外は
もちろん少なからずあると聞いています。
【江川委員】 ええ。それは、法学博士でしたっけ。
【安念教授】 法務博士。
【江川委員】 法務博士になるわけです。じゃ、その資格というか、あれは、学位は何
にも生きない?
【安念教授】 というか、スティグマでしょうね、むしろ。マイナスですよ。ないほう
がずっといい。それはそうでしょう。
【江川委員】 それからもう一つ、先ほど、ソクラティック・メソッドだけじゃなくて、
もう一つ公的に受験勉強はやらせてはいけないとか、何かそういう制約が、すごく実際や
っているととても困るような制約というのはかなり多いですか、教えている上で。
【安念教授】 いや、私は、そもそも受験勉強、受験に役立つ勉強と理論的な水準とを
両立させることがなぜ難しいのは全くわかりませんので、私個人は何も困っていません。
ただ、そういうふうに言う人が結構いることは事実です。
【谷藤座長】 受験と言われるようなものに特化しないことが、そういう形で制度設計
したり、カリキュラム編成をするというようなことが当初はあったと思います。こういう
2,000人ぐらいしか合格しないという状況、先ほど先生もおっしゃったように5人を入れて
5人を飛ばすというような、そういう状況の中で、法科大学院自体もカリキュラムだとか
ある種の方向性みたいなものを変えていこうという試みがあるやに聞いておりますけれど
も、先生もやはり当初の目的よりも変節せざるを得なかったという感想はお持ちですか。
【安念教授】 いや、私は当然こうなるだろうと思っておりましたので。何度も申しま
すように、合格率が20%であろうが50%であろうが、当面、司法試験に受かる以外の目標
のない人たちしかいないに決まっているんですから、こうなるのはそれは当たり前ですよ
ね。それ以外のありようがなかっただけの話であって、「当初のもくろみと違った」と言っ
ている人がもしいるとすれば、その人たち、当初、何を考えていたんだろうなって、とて
も不思議に思います。
【江川委員】 先生としては、旧司法試験と今の司法試験とどっちがいいと思いますか。
【安念教授】 どっちもだめだと思います。旧司法試験は合格者が少な過ぎました。そ
れから、新司法試験は、まだ今でも合格者はナンセンスなほど少ないと思いますし、それ
から、法科大学院の履修を強制したところはますますよろしくないと思いますね。ただ、
私が申し上げているのは、司法試験の合格者は、私、何千人いたって全然構わないと思う
んです。要するに、司法試験を受かれば、その資格で食っていけると思わせたところが失
敗なんです。どんな資格だって、それ一本で食っていける資格なんてあるわけないんです
から、それで食いっぱぐれることは十分あり得ます。本当かどうかは知りませんが、アメ
リカでは、ローヤーの資格を持っている女性の半分は専業主婦だそうです。これはね、ジ
ェンダーバイアスのためだとすれば大問題ですよ。大問題だけど、ローヤーの資格を持っ
ていたって食えない人が出るというのは当たり前だと私は思うんですけど。そうでないよ
うな何か妙な信仰がローヤーについてだけは日本にあったのが、やっぱり最大の失敗だっ
たと思いますね。
【谷藤座長】 先生は、リーガル・サービスは経済活動の派生需要だということをおっし
ゃっておりますけれども、そうなると、全体的な日本におけるリーガル・サービスの需要
と言われるようなものについては、そんなに拡大しないとお考えですか。
【安念教授】 拡大しないとは思っておりません。減少すると思っております。日本人
が経済的に合理的な行動をするのであればです。リーガル・サービスを受け、そのコスト
を払って、なおかつそれを上回る利得が得られなければ、リーガル・サービスを使う意味
がありません。そのような利得の機会がどんどん減っていると思いますので、リーガル・
サービスの需要は減るというふうに思います。ただ、経済のマクロトレンドは上方へも下
方へも人間の力で動かせるものじゃありませんので、何か偶然の僥幸によって景気がよく
なるということは、それはあるかもしれません。そのときはそのときで、よかったねと。
私の見通しが外れてくれるのを祈るしかありません。
【谷藤座長】 そういう先生のお考えからすると、当初の目標として、いわゆる法曹人
口というものを上昇させていく見込み、あるいは目標が設定されておりましたけれども、
その目標については、どうお考えですか。
【安念教授】 それで結構だと思います。資格では食っていけないローヤーがたくさん
出るかもしれませんが、それ自体は何の問題もないと思います。
【江川委員】 とすると、先生の考え方は、例えば何人合格させるとかいうのではなく
て、これぐらいの基準があれば全部それは合格させて、その後、どういう方向に行くのか
はそれぞれが考えなさいよという、そういう感じですか。
【安念教授】 おっしゃるとおりだと思います。そうでない資格というのがほかにある
んでしょうか。いや、知りませんけど……。
【江川委員】 医者はどうですか、医者。
【山田委員】 医者だけですよね。
【安念教授】 医者は、保険がありますからね。市場での選択だけに委ねるわけにはい
かないという理屈があるのかも知れません。もう一つは解剖用の死体の絶対数に限りがあ
りますから、とにかく解剖できなきゃ医者はつくれませんから、入り口を絞らざるを得な
い。ローヤーは別に死体がなくたってできますから、ええ。
【谷藤座長】 じゃ、先生、どうもありがとうございました。まだ聞きたいことはある
んですけれど、時間が制約されておりまして、こんな形になりました。大変申しわけござ
いません。
【安念教授】 とんでもないです。いろいろとすみません、どうも。いつものとおりな
んですが、でまかせを申しまして恐縮でございます。どうもありがとうございました。

(コメント)
でまかせじゃ、ないと思う。
ほんとのことだよね。。
安念先生ナイスだな〜